東京地方裁判所 昭和37年(レ)307号 判決 1963年3月19日
控訴人 中島育子
右訴訟代理人弁護士 渡辺邦之
被控訴人 伊野庄左衛門
外六名
右七名訴訟代理人弁護士 岩田満夫
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
控訴人は昭和三十六年三月三十一日国から本件土地の占有の移転を受けたと主張するので按ずるに、右事実を認めるに足る疎明はなく、却つて成立に争のない乙第一号証の一ないし六≪中略≫によれば、被控訴人等は国有地である本件土地を遅くとも昭和二十五年頃から引続き耕作して使用していたところ、昭和三十六年一月、関東財務局立川出張所からその使用を禁止するから同年二月末日までに耕作物を収去するよう通告を受けたが、これに承服せず、その旨の回答をしたり又国を相手として調停を申し立てるなどしてこれを争い、依然として耕作を続け土地の返還をしなかつたことが疎明される。そうだとすれば、国は本件土地の占有を取得したことはなく、従つて控訴人が国からその占有を承継するいわれはないといわなければならない。
もつとも成立に争のない甲第二号証≪中略≫によれば、控訴人は、本件土地を国から借り受けるに際し、昭和三十六年三月三十一日、関東財務局立川出張所長との間で契約書を取り交わし、右両者間においてはその第十条によつて即日合意のみによつて引渡即ち占有の移転がなされたとされたこと、そこで、控訴人は、同年四月頃、本件土地の周囲を囲むことなく、ただその内の一箇所に表札を建てたが、その後なくなつたと聞いて、同年十一月頃、前同様本件土地内の一箇所に標柱を建て、これらによつて占有の事実を明白にしようとしたことが窺われるけれども、本件のように被控訴人等がすでに永く継続して占有使用していた土地について、たんに右のような合意をしたりその内の一箇所に標識を設置しただけで直ちに土地の全部について控訴人が国から客観的な支配力を取得したとは到底認めることができない。
以上の次第で、本件土地について占有権をもつて被保全権利とする控訴人の本件仮処分の申請は理由がないものといわなければならず、又保証をもつてこれに代えることは相当ではないと考えられる。よつてこれと同趣旨により本件仮処分決定を取り消して控訴人の仮処分申請を却下した原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。
よつて本件控訴はこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中良二 裁判官 土屋一英 友納治夫)